95:最終章 ノーフィッシュ

← 94: | fish | 96: →

しばらく、力尽きたキングを持ったまま動かずにいた輝幸は
少し薄暗くなった空を見上げ、ふぅっと大きくため息をついた。

そして、もう一度キングに優しい眼差しを送り、静かに優しく
その口から、ガッチリと喰い込んだフックを外してやった。

力尽きたとはいえ、なおも圧倒的な存在感を放つその魚体。
闘ったもの同士しか分からない、意識が二人をとりまく。

30分以上にわたる格闘の記憶は、全くない。
パンパンに張った左腕と、血の滲んだ右手、白く乾いて
ひび割れた唇・・・・
そして、力尽きて輝幸の手にゆだねられたキング・・・
ただ、そんな光景だけが先程までの死闘の影を
感じさせる。

風はいつの間にかすっかり止み、湖面は傾く夕日を反射して
息をのむほどの美しさだ。
山々の稜線が緑に輝いて、美しい。

あぁ、ここは自然だ。
ただユラユラと浮かんでいる。
動力も、最新の機材も存在しない。

ただユラユラと浮かんでいる・・・。

ほんの短い時間だったが、輝幸は夢を見ているような
そんな感覚に包まれていた。
五感すべてがリラックスして、開放された感覚。

「おい・・・藤野・・・」


2008年9月26日(金)

NO-FISH・過去記事
連載小説 ”NO-FISH”1:第一章 プロローグ2:3:第二章 デビュー4:5:6:7:8:9:10:11:12:13:14:15:第三章 ミラクルバシング16:17:第四章 ライトゲーム18:19:20:21:22:23:24:25:26:27:28:29:30:31:第五章 ハイテク バシング32:33:34:35:36:第六章 リトルアングラー37:38:39:第七章 老人40:41:42:43:第八章 迷い・・・・44:45:46:47:48:49:50:51:第九章 フロック?52:53:54:55:56:57:58:59:60:61:62:63:64:65:第十章 最後の決戦66:67:68:69:十章 第二節 プレッシャー70:71:72:73:74:75:76:77:78:79:80:81:十章 第三節 懐かしいパワー82:83:84:85:十章 第四節 スーパーランカー86:87:88:89:90:91:92:93:94:95:最終章 ノーフィッシュ96:97:98:最終話99:あとがきNO-FISH