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ボートを、エレクトリックモーターで静かに滑らせ
ある地点で艇を泊めた。

水深7・3m。
斜面の途中にボーリングの玉くらいの大きさのゴロタ石が
数十個沈んでいるポイントの真上である。
確実にバスがついているだろう絶好のポイントであった。

輝幸は少し興奮気味に、本日同船のプレスに言った・・・。

「見ろよ、吉田・・・・絶好のポイントだぜ!
 こりゃ、ランカーがついてるな。
 ほんじゃ、一丁釣ってみますか!」

本日同船のプレスは、輝幸の昔からの友人で、
プロになってからも時々あっては杯を交わす仲の吉田直也であった。
同船のプレスは当日発表されるので、全くの偶然であるが
気心の知れた人間と同船するのは、精神的にも楽であった。

しかし、トーナメント中は友人云々などは言ってられはしない。
一人の審判員、そして報道員なのである。

吉田は輝幸に、
「俺は今日は友人じゃないぜ。
 気心が知れているからって、情報をリークしたり
 違反を見逃したりしないからな!」
と注意した。

もっとも輝幸にそんなつもりは全くなかったし
違反するような人間でもなかったが
「わかってるって!
 まぁ、そうカタいこと言わずに、気楽に行こうや!」
と、リラックスしていることを自分に言い聞かせるように言った。

実は、内心少し緊張しているのを輝幸は自覚していた。


2008年8月22日(金)

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