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輝幸はロッドストレージから一本の長いロッドを取り出した。
シマノ スピードマスター  クランキングスペシャル

ボロン素材を多く使ったこのロッドは、7フィートの長さを
全く感じさせない。
ティップ(先端部)はあくまで繊細で、小さなクランクベイトには最高の
アクションが与えられる。
しかし、バット(胴部)は強く、ビッグクランクベイトの激しい抵抗をものともせず
確実にその潜航深度を保ち、
また、ランカーをも確実に取り込める粘り強い力を持っていた。

セットされるリールは同じくシマノ スピードマスターシリーズのセラミックだ。
6・5対1のハイギァードになっており、スピーディなリーリングが可能。

ラインはソラローム? ウルトラ 14ポンドテスト。
14ポンドラインとは思えないほど細くしなやかで、輝幸はこのラインを
最も信用していた。
ルアーの性能を100%引出し、かつルアーと自分とを唯一直接結ぶラインに
彼は細心の注意を払っていた。

そして、そのラインの先端に結ばれるルアーは
バグリー社製クランクベイト DB-?
カラーは、ゴールド&ブラック
そのフックはピンピンに研がれ、ランカーの固い上顎も
簡単に抜き通すことができる。
水深3m前後をカバーするDB??は比較的浅い湖である霞ヶ浦には
ぴったりのパイロットルアーである。
そして、輝幸が最も好きで信頼しているルアーであった。

タックルボックスから取り出したそのルアーは古く、バスの歯型が幾つもついていた。

「俺はこいつが好きでね・・・・」
と独り言のように呟き輝幸はそのルアーに軽くキスをした。
「よろしく頼むぜ!」
ダブルハンドルのロッドを持ったまま、エレクトリックモーターのフットコントロールに
足をやって、その位置のままクルッと180°回頭した。
そして、一瞬の沈黙の後、おもむろにキャストした・・・

”ヒュン・・・”
と鋭い音を立ててバグリーDB??は20mほど先のその一点に
音もなく着水した。


2008年5月30日(金)

NO-FISH・過去記事
連載小説 ”NO-FISH”1:第一章 プロローグ2:3:第二章 デビュー4:5:6:7:8:9:10:11:12:13:14:15:第三章 ミラクルバシング16:17:第四章 ライトゲーム18:19:20:21:22:23:24:25:26:27:28:29:30:31:第五章 ハイテク バシング32:33:34:35:36:第六章 リトルアングラー37:38:39:第七章 老人40:41:42:43:第八章 迷い・・・・44:45:46:47:48:49:50:51:第九章 フロック?52:53:54:55:56:57:58:59:60:61:62:63:64:65:第十章 最後の決戦66:67:68:69:十章 第二節 プレッシャー70:71:72:73:74:75:76:77:78:79:80:81:十章 第三節 懐かしいパワー82:83:84:85:十章 第四節 スーパーランカー86:87:88:89:90:91:92:93:94:95:最終章 ノーフィッシュ96:97:98:最終話99:あとがきNO-FISH